小説 オンリー・イエスタデイ35「欲の一元論」 高校2年のときの私は、とにかく苦しかった。理由は、自分にとうてい手の届かない目標を掲げていたからだ。 小学生のときに読んだパスツールの伝記の影響で、私は将来、研究医になりたいと思っていた。研究医になって新しい治療法を発見すれば、世界中... 2019.09.01 小説
小説 オンリー・イエスタデイ34「変身」 Aが勉強そっちのけで、孤高の精神を保っておれたのは、一にも二にも、内面を支える思想的なヒーローがいたからだ。Aがトルストイやドストエフスキー、あるいはゲーテやチェーホフについて語るとき、私はその文学的な語り口に魅了されながらも、激しく嫉妬... 2019.08.15 小説
小説 オンリー・イエスタデイ33「スメルジャコフ」 『地下室の手記』で、Aが特に好んだエピソードに、地下室の住人と将校との対決がある。 地下室の住人が撞球場に行って、撞球台の横でぼんやり立っていると、前から来た将校が彼の両肩をつかみ、まるで邪魔な荷物か何かのように、横にすげかえるという場... 2019.08.01 小説
小説 オンリー・イエスタデイ32「地下室の住人」 トルストイに負けず劣らずAを魅了したのが、ドストエフスキーだった。 彼は『罪と罰』を読んで、いたく感動したようだったが、中でも特に酔いどれの退職官吏、マルメラードフにシンパシーを感じたようだった。 マルメラードフは、肺病の妻のスト... 2019.07.14 小説
小説 オンリー・イエスタデイ 31「Comme il faut」 “Comme il faut”(コム・イル・フォー)とは、“品のよい”とか、“礼儀をわきまえた”とかいう意味のフランス語である。この言葉はトルストイの『青年時代』に出てくる。 この概念が、17歳のAをいたく魅了し、彼の価値判断の絶対基準... 2019.07.01 小説
小説 オンリー・イエスタデイ 30「若きヒットラー」 高校2年生の夏休み、私は一冊の本と出会った。 水木しげる著『劇画ヒットラー』 書店で見つけたときには手が震えるほど興奮した。 私がヒットラーに興味を持つようになったのは、中学2年生でAとともに戦車模型を作りだしたころだった。ド... 2019.06.15 小説
小説 オンリー・イエスタデイ 29「水木しげる熱」 今でもそうだが、Aと私の共通のアイドルに、漫画家の水木しげるがいる。 私が水木漫画に触れたのは、小学校4年のとき、別冊少年マガジンに掲載された「テレビくん」を読んだのが最初だった。それまで「鉄腕アトム」や「鉄人28号」「伊賀の影丸」な... 2019.06.01 小説
小説 オンリー・イエスタデイ 28「モルモン教」 高2の1学期が終わるころ、私はモルモン教の宣教師と親しくなった。 きっかけは、昼休みに街頭にいる宣教師に話しかけたことだ。モルモン教に興味があったわけではない。実地の英会話を鍛えたくて、アメリカ人と話してみたいと思っていたのだ。学校で... 2019.05.13 小説
小説 オンリー・イエスタデイ 27「晴天嫌い」 そのころの私は、Aの悪魔性、反社会性に惹かれながらも、自らの優等生的な良心にも執着を感じていた。努力することや、誘惑に負けず自分の意志を貫くことに、まだ価値を見出していたのだ。 倫理社会の授業で、クロムウェルの禁欲主義を習ったときも、... 2019.05.01 小説
小説 オンリー・イエスタデイ 26「銀縁眼鏡」 高校2年のころのAの風貌には、一種独特のものがあった。 7歳のときから彼を知っている私としては、ある種の異様さにますます磨きがかかった印象だった。 Aは中学生になってから、近視の眼鏡をかけていたが、そのころは縁が黒と透明のプラス... 2019.04.15 小説