2020-06

小説

オンリー・イエスタデイ54「京都の一夜」

 文芸雑誌の新人賞に応募しても、一次選考にさえ通らないことに落胆して、私は文芸雑誌を軽蔑するようになった。商業主義におもねってどうする、自分の志はもっと高いはずだと、そんな気概だった。要するに、私はダメな人間がよく陥る似非孤高の穴ぐらに逃げ...
小説

オンリー・イエスタデイ53「気の迷い」

 大学教養部の2年間、私は苦しかった予備校時代の反動で、羽を伸ばすことに専念した。  車の免許を取り、親に中古のフォルクスワーゲンを買ってもらい、サッカーに打ち込み、一人旅に出たり、映画を観まくったり、当時、コンポと呼ばれたステレオセット...