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オンリー・イエスタデイ55(最終回)「訣別」

 京都でムロダの下宿を出たあと、Aと私は泥酔のまま、自転車で深夜の町をさまよった。そのとき、Aがこんな話をした。 「真冬に雪が降ったとき、雪見酒をしようと思って、外で日本酒を飲んでたら、寒うなって、身体を温めるためにしこたま飲んだら、急性...
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オンリー・イエスタデイ54「京都の一夜」

 文芸雑誌の新人賞に応募しても、一次選考にさえ通らないことに落胆して、私は文芸雑誌を軽蔑するようになった。商業主義におもねってどうする、自分の志はもっと高いはずだと、そんな気概だった。要するに、私はダメな人間がよく陥る似非孤高の穴ぐらに逃げ...
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オンリー・イエスタデイ53「気の迷い」

 大学教養部の2年間、私は苦しかった予備校時代の反動で、羽を伸ばすことに専念した。  車の免許を取り、親に中古のフォルクスワーゲンを買ってもらい、サッカーに打ち込み、一人旅に出たり、映画を観まくったり、当時、コンポと呼ばれたステレオセット...
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オンリー・イエスタデイ52「煉獄」

 大学の同級生を“ヴァルガー”と見なしながら、自分だけは“コム・イル・フォー”でいようと努めていた私は、小説家になるという崇高な志(自分ではそのつもりだった)を胸に秘めていたため、大学の勉強に時間を費やしているヒマはなかった。  しかし、...
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オンリー・イエスタデイ51「無意味」

 大学に合格したあと、私は久しぶりにAに会った。春の夕暮れどき、Aを誘って近所の墓地を散歩したのだ。その墓地は中学校の横の大きな池の傍にあり、周囲をススキに囲まれていた。  Aは世俗的な価値を超越していたので、私の合格を祝福したりはしなか...
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オンリー・イエスタデイ50「白旗」

 大学の受験は、高校1年生のときからの志望校に願書を出した。  校内模試では1度も合格圏内に入ったことはなかったが、外部の模試で1回だけ、奇跡的に合格できる成績を取ったことがあった。本番でふたたび奇跡が起きれば、合格も夢ではない。  そ...
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オンリー・イエスタデイ49「泥沼」

 いくら現実から目を背けていても、時間を止めることはできない。  受験の日がどんどん近づいてきて、ヴァルガーとかコム・イル・フォーとか、戯言を言ってはいられなくなった。  それでも、私は受験勉強を嫌悪し、まじめに授業を受けている級友たち...
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オンリー・イエスタデイ48「横道」

 高校3年生の1年間は、受験勉強の日々でなければならないはずだ。  しかし、私は高校2年生の半ばに、クラブに復帰し、小説にも目覚めて、勉強時間が減ったのに、成績が上がったので、自惚れた気持で3年生に進級した。  受験勉強など、ヴァルガー...
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オンリー・イエスタデイ47「苦悶」

 8月にはエッちゃんの誕生日があった。私はベージュのバギーパンツ濃紺の長袖Tシャツ(バギーパンツに半袖は合わないので)という出で立ちで、酷暑に耐えつつ、待ち合わせの駅に行った。エッちゃんは黄色のポロシャツに灰色のミニスカートだった。  難...
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オンリー・イエスタデイ46「暗と明」

 高校3年の1学期、私はAとは別のクラスになり、教室で彼の視線を気にする必要もなくなった。そして、2年下のエッちゃんからつき合いOKの返事をもらい、いとも簡単に幸福の頂点に昇り詰めた。  はじめてのデートは、悩んだ末、映画に行くことにした...