ふつう、子どもはどのようにして自慰を覚えるのか。
人それぞれだろうが、私はそれを自分で知った。
小学4年生のとき、ときどき夜に理由もなくコーフンして、性器が大きくなることがあった。布団の中で、私はそれをいじめるように握ったりこすったりした。あるとき、髪の長い外国人の女性が裸で砂浜を走っているところが思い浮かび、ふいに股間がケイレンして、骨盤を突き上げるような快感が迸った。
経験したことのない快感だったが、だれにも言えない疚しさも伴っていた。だから、もう二度とすまいと思った。
しかし、何日か後、私はふたたび硬直した性器を持て余し、同じことを繰り返した。脳髄に突き抜けるような悦楽に刹那、放心し、また後ろめたい気持になった。
同時に、自分は異常ではないかと不安を感じた。セックスのことをよく知らなかったので、だれにでもあるとは思えなかったのだ。
最初にセックスの話を聞いたのは、小学1年生のとき、2歳上のコチというあだ名(魚のコチのように押しつぶされた顔をしていた)の不良からだった。
──女のアソコには穴が3つあるねん。
そう言って、コチは地面に丸を3つ描いた。縦3列ではなく、3角形の並びだった。
──1つはションベンをする穴、1つはウンコをする穴、もう1つがオメコをする穴や。
それが何を意味するのはわからなかったが、とにかくいやらしく思えてコーフンした。3角形のどの穴がソレなのか聞いたが、コチは答えをごまかした。彼もよく知らなかったのだろう。
その話を聞いて以来、女性器は私にとって神秘の場所になった。
自慰行為を覚えたときは、まだ精通がなかったので何も出なかった。
小学5年生になって、カブスカウトからボーイスカウトに昇格すると、テントで泊まる活動があった。夜にテントの中で年長のスカウトが、女子にはメンスというものがあると教えてくれた。女子の身体には“ホルモン”というものがあって、それがアソコから血といっしょに出てくるというのだ。今の子どもでは考えられないフェイクな話だが、情報がかぎられていた当時はそんなものだった。
しばらくして、ある夜、突然、自慰行為の快感のときに液体があふれ出た。
私は布団の中で固まった。恐る恐る指で触ると、血ではなかったので少し安心した。だが、性器から出たものなので、きっと“ホルモン”にちがいないと思った。それは女子にしか出ないはずなのに、もしかして、自分にもメンスがはじまったのか……。
私は恐怖におののき、二度と性器には触れまいと誓った。
しかし、何日かたつと、またあの快感に誘惑されて、性器を握った。前に“ホルモン”が出たのはたまたまで、今度は出ないかもしれない。そう思ったが、やはり快感と同時に液は噴き出た。絶望した。やっぱり自分はおかしいのだ。
だれにも相談できず、ひとりで悩んだ。
風邪をひいて母といっしょにかかりつけの医院に行ったとき、医師が背の高い私を見て、「ホルモンのバランスがええんやろな」と言った。私は自分で放出しているからだと思い、夜の悪癖を見抜かれたように感じて、髪の毛が逆立つほど恥ずかしかった。
その後、中学生になると、自慰がだれにでもあり、出たのは“ホルモン”ではなく精液だということを友人たちとの会話で知った。安心すると同時に、自分は大人の世界を一足先に垣間見ていたのだなと、妙な感慨にふけった。
(つづく)