小説

オンリー・イエスタデイ44「マント」

 高校2年の冬、私はとにかく個性的でありたいと願っていた。  もともと、人と同じというのがいやな性格だったので、団体行動も苦手だったし、みんなで何かを成し遂げるというようなことも嫌いだった。祭りや盆踊りの雰囲気は好きだったが、あくまでその...
小説

オンリー・イエスタデイ43「慢心」

 私がAに感じていた特異な個性が、幻想だったとすれば、私はなぜそのようなものを求めたのか。どうしてそんな架空の憧れめいた意識を持とうとしたのか。まったく心当たりはない。  もしかして逆に、Aが私の幻想を維持するために、私のイメージに合うA...
小説

オンリー・イエスタデイ42「告白・後編」

 Aが私以外の連中と親しくし、酒まで飲み、あまつさえ電話で女子に告白をするなどという“ヴァルガー”な行動に出たことで、私はプライドを傷つけられ、Aに対する信頼は大いに損なわれた。  部屋を出た私は、たまたま出会ったクラスの優等生に声をかけ...
小説

オンリー・イエスタデイ41「告白・中編」

 修学旅行の3日目は、高千穂から延岡に向かい、夕方、青島に着いた。Aと私は、またクラスの連中から離れ、相変わらず観光名所などは無視して、あちこちを歩きまわった。  青島にある溶岩が固まった波状の岩である“鬼の洗濯板”だけは、地球離れした景...
小説

オンリー・イエスタデイ40「告白・前編」

 高校2年生のとき、私はAとともに自らを孤高に仕立て上げ、意味もなく級友たちを忌避し、ほとんど口も聞かなかった。  10月には修学旅行があったが、その間も同じメンタリティを保つつもりだった。ところが、早朝に集合場所に集まり、Aと顔を合わせ...
小説

オンリー・イエスタデイ39「覚醒」

 医師になって医学の研究に勤しみ、難病の治療を開発して、多くの患者を救いたいという私の初志は、ドグマの発見によって完全に意義を失ってしまった。  それどころか、世間的に立派と評される目標が、何の深みもない浅はかなものに思え、嫌悪さえ抱くよ...
小説

オンリー・イエスタデイ38「上下関係」

 Aと私は、ときどき授業を抜け出して、高校の近くを散歩した。体育館で集会があるとき、知らん顔をして学校の外へ出たり、昼休みにフラフラと歩いて、午後の授業がはじまってももどらなかったりした。  我々が好んだのは、陰鬱な曇り空の日で、だれもい...
小説

オンリー・イエスタデイ37「反抗期」

 高校2年の担任は、タルイハジメという数学の教師だった。  色黒で額が禿げ上がり、後頭部が突出したいわゆる後ろデコだった。眼鏡のギョロ目で、やや出っ歯。口調は講談師のようにメリハリがあって、生徒に人気があった。モノマネをする生徒がいたり、...
小説

オンリー・イエスタデイ36「クラブへの復帰」

 人間のあらゆる行動が、欲に端を発しているという意味で、すべて同等であるとわかると、世の中がまるでちがって見えた。  刻苦勉励も自己犠牲も謹厳実直も、何ら貴いものではなくなったし、怠惰も狡知もエゴイズムも、特に忌避すべきものとは思えなくな...
小説

オンリー・イエスタデイ35「欲の一元論」

 高校2年のときの私は、とにかく苦しかった。理由は、自分にとうてい手の届かない目標を掲げていたからだ。  小学生のときに読んだパスツールの伝記の影響で、私は将来、研究医になりたいと思っていた。研究医になって新しい治療法を発見すれば、世界中...