小説

オンリー・イエスタデイ 15「ねむらし屋の息子」

 Aに頭頂部を殴られたスミダは、母親が手芸店を営んでいた。それでAは、スミダのことを「毛糸屋の息子」と呼んで、馬鹿にしていた。  余談だが、今は「○○屋」という言い方を小説で書くと、校正で直される。その職業を蔑視していると受け取られるから...
小説

オンリー・イエスタデイ 14「孤高」

 中学2年生のクラスでは、Aと私とサダという生徒が成績上位だった。前期の代議員を決めるとき、サダと私のほか何人かが立候補して、クラス投票で私が選ばれた。当時の私は代議員に選ばれることに価値を見出していた。  Aはそういうことに無関心であり...
小説

オンリー・イエスタデイ 13「激情」

 中学2年生になって、Aと私は5年ぶりに同じクラスになった。  その少し前から、男子の間で戦車の模型を作ることが流行っていた。当時、田宮模型が精巧なプラモデルを出していて、ただ組み立てるだけでなく、実車の写真を見て塗装したり、型式を改造し...
小説

オンリー・イエスタデイ 12「頭がいい」

 小学6年生のとき、Aは緑色の毛糸の帽子をかぶるようになった。当時、テレビで放映していたアメリカのコメディ「ザ・モンキーズ」のマイク・ネスミスがかぶっていたのと同じものだ。近くの手芸店で作ってもらったものらしかった。  同じ帽子を、カヤと...
小説

オンリー・イエスタデイ 11「アイドル」

 小学5、6年生のときは、Aとクラスが別だったので、いっしょに遊んだ記憶はほとんどない。ただ、ときどき彼の特異な感覚に驚かされることはあった。  クラスにかわいい顔の男子がいて、担任の先生が「美少年」だと言った。すると、それを聞きつけたA...
小説

オンリー・イエスタデイ 10「秘密」

 小学5年生に上がるときのクラス替えでは、またもAとは別のクラスになった。  私はほかに親しい友だちができ、Aのことはあまり意識しなくなった。しかし、どういうわけか、性的な記憶に関してはAの影がチラついていたように思う。  そのころ、家...
小説

オンリー・イエスタデイ 9「自慰」

 ふつう、子どもはどのようにして自慰を覚えるのか。  人それぞれだろうが、私はそれを自分で知った。  小学4年生のとき、ときどき夜に理由もなくコーフンして、性器が大きくなることがあった。布団の中で、私はそれをいじめるように握ったりこすっ...
小説

オンリー・イエスタデイ 8「白血病」

 小学3、4年生のときに好きだったトモコのほかにも、私は白血病で女友だちを失っている。  幼稚園からいっしょだったゼニタカジュンコで、家も近所だったので、何度か互いの家で遊んだ。顎が小さく、髪が自然にカールして、睫毛の長い優しい目をしてい...
小説

オンリー・イエスタデイ 7「脅迫」

 3年生の同じクラスに、フカヤヒロシというガキ大将がいた。私は長い間、このフカヤに脅迫され続けた。  私がフカヤに逆らうと、「アレを言うぞ」と脅されたのだ。その一言で私は負け犬同然に尻尾を巻かざるを得なかった。  発端は3年生の夏に行わ...
小説

オンリー・イエスタデイ 6「好きな子」

 小学3年生になったとき、Aとは別のクラスになり、関係は疎遠になった。  私の入ったクラスは明るく健康的な児童が多く、野球やドッジボールでよく遊んだ。  1年生のときに好きになったキクサカエリコも同じクラスだったが、そのころは以前ほど好...